Horror Ambient(ホラーアンビエント)とは
恐怖という情動を生じさせることを唯一の目的として作られたアンビエント。手法は映画の音響設計と共通しており、聴き手の予想を裏切ることで、体の反応を引き出す。基本素材は、極低域のうねり(20〜40Hz付近の、耳では聴こえにくいが胸に圧
恐怖という情動を生じさせることを唯一の目的として作られたアンビエント。手法は映画の音響設計と共通しており、聴き手の予想を裏切ることで、体の反応を引き出す。基本素材は、極低域のうねり(20〜40Hz付近の、耳では聴こえにくいが胸に圧迫を感じる帯域)、金属を引き摺る音、逆再生した楽音、極端に引き伸ばした人声、そして無音そのもの。緊張の作り方には決まった型があり、長い静寂の後に予告なく大音量を差し込むスティンガーや、少しずつ音程を上げ続けて解決を与えないシェパード・リセ・グリッサンド(音程が滑らかに上がり続けて聴こえる音)のような上昇、そして二つのわずかに周波数の異なる音を重ねて生じる不快な唸りが使われる。弦楽器では駒に極端に近い位置で弓を当てるスル・ポンティチェロ、弓を弦に叩きつけるコル・レーニョ、微分音でずらした複数のヴァイオリンによるクラスターといった現代音楽の奏法が引用される。ピアノは内部の弦を直接擦る、あるいはハンマーを止めて共鳴だけを残す用法が多い。リズムは基本的に排され、代わりに心拍や呼吸、滴る水、足音といった生理的・情景的な音が不規則に置かれる。和音は減5度(トライトーン)や半音のぶつかりをあらわに使い、落ち着かないまま伸ばし続ける。ゲームやアトラクションで実際に使われるものも多く、映像なしで聴くこと自体が試練になるよう作られている点が、他の暗いアンビエントとの相違になる。
成り立ち
土台は20世紀の映画音楽と現代音楽で、両者がインダストリアル以降の電子音楽と合流して独立した分類になった。決定的な参照源はポーランドのKrzysztof Pendereckiで、1960年に作曲され1961年に初演された「広島の犠牲者に捧げる哀歌」では52の弦楽器が微分音のクラスターと極端な奏法で、旋律を一切持たない音塊を作った。この作品は後に「トゥモロー・ワールド」(2006年)や「ツイン・ピークス The Return」などで使われた。Stanley Kubrickは1980年の映画「シャイニング」で、Pendereckiの「De natura sonoris」や「The Awakening of Jacob」「Polymorphia」などとGyörgy Ligetiの「ロンターノ」を使い、これらが恐怖の音響の共通の表現として大衆に刷り込まれた。同様に1968年の「2001年宇宙の旅」でLigetiの「レクイエム」が使われたことも、ミクロポリフォニー(密な多声が生む音のクラスター)による合唱が超越的な恐怖を表すという定型を作った。電子的な側面では、1956年の映画「禁断の惑星」でLouis and Bebe Barronが完全に電子回路だけで音楽を制作し、回路が焼き切れるまで動作させて録音するという手法をとった。1970年代にはJohn Carpenterが低予算のため自ら音楽を担当し、1978年の「ハロウィン」で5拍子の反復的な主題をピアノの音色とシンセで奏でて、簡素な電子音でも極度の緊張を作れることを示した。1977年の「サスペリア」ではイタリアのバンドGoblinが、囁き声とブズーキと電子音を組み合わせた音楽を制作している。並行して、インダストリアルとダークアンビエントの側からLustmordや、2003年にデビューしたAtrium Carceriといった作家が、実際の地下聖堂や洞窟、屠殺場での録音などを素材にした恐怖の音響を発表した。この分野を決定的に拡張したのはゲーム音楽で、1999年から始まる「Silent Hill」シリーズで山岡晃が、金属の擦過音と壊れた工場のノイズを楽曲として提示し、音楽と効果音の境界を消した。2008年の「Dead Space」ではJason Graves がホラー用の弦楽奏法を全面に用い、2010年代の「SOMA」や「Amnesia」ではMikko Tarmiaらが極低域と沈黙の設計を洗練させた。もう一つの流れとしてハロウィン産業がある。アメリカでは1960年代から効果音のLPが季節商品として売られ、1964年にはディズニーランド・レコードが、スタジオの効果音素材を集めた「Chilling, Thrilling Sounds of the Haunted House」を発売した。2010年代以降はストリーミングと動画配信で、映像なしの長時間ホラーアンビエントが独立した鑑賞対象として定着し、Cryo Chamberの「Cthulhu」共作企画のように、H. P. Lovecraftの小説世界を音だけで構築する試みが広い聴衆を得ている。
代表曲
- Halloween Theme (John Carpenter)
- Suspiria (Goblin)
- I'm Going to Do It (Giles Corey)
- The Haunting Presence (Giles Corey)
- Grave Filled with Books (Giles Corey)
- Stalker (Lustmord)
- Devil's Laughter (Akira Yamaoka)
- Fields of Asphodel (Mortaur)
- Eternal Slavery (Mortaur)
- As the Forest Speaks (Mortaur)
- Redeem Us Now (Foundation Hope)
- When Darkness Falls (Nox Arcana)
ルーツ(影響を受けたジャンル)
Ambient、 Dark Ambient
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