Glitch(グリッチ)とは
デジタル機器が起こす誤動作や欠陥を、隠すべき失敗ではなく音楽の素材そのものとして扱う音楽である。用いられるのは、CDの読み取り不良によって生じる断続的な音の飛び、音声データの一部が破損したときに生まれる短い雑音、音をデジタルに取り
デジタル機器が起こす誤動作や欠陥を、隠すべき失敗ではなく音楽の素材そのものとして扱う音楽である。用いられるのは、CDの読み取り不良によって生じる断続的な音の飛び、音声データの一部が破損したときに生まれる短い雑音、音をデジタルに取り込む細かさの限界を超えたときに起きる、折り返しの歪み、そして処理が追いつかないときに現れる、音の途切れや破綻である。これらは本来、聴き手に届く前に取り除かれるべきものだが、この分野ではそれこそが主役となる。音の一つひとつはとても短く、数ミリ秒の断片が高速で連なることで、一種の粒状の質感が生まれる。この、砂を撒くような、あるいは静電気のような手触りがこの音楽の特徴である。リズムは存在する場合もあるが、拍が均等に割られることは少なく、断片の密度によって時間感覚が作られる。低音を削ぎ落とす作り手もいれば、ダブのような低音を軸にする作り手もいる。極端に純粋な正弦波が置かれることもある。和音もメロディーも後ろに引き、代わりに音の高さと密度と、音を置く位置が曲の材料になる。音量の幅は極端で、ほとんど無音の状態と刺すような高音が隣り合う。聴き手は音楽を鑑賞するというより、機械の内部で起きていることを覗き込む位置に置かれる。
成り立ち
先駆として重要なのは日本の刀根康尚である。彼は1980年代半ばから、CDの表面に穴の開いたテープを貼るなどして意図的に読み取りを妨害し、そこから生じる音を作品として提示していた。これは、複製技術の完璧さという触れ込みで登場したCDに対する、批評的な反撃と見ることもできる。この発想が音楽の潮流としてかたちになったのは1990年代半ばのドイツである。Markus Poppは Oval という名義で、CDの表面にフェルトペンなどで書き込んで傷をつけて再生し、そこで生じる断続的な音を素材として作品を構成した。Ovalの1994年から1995年の作品群(『Systemisch』『94 Diskont』)は、破損した音が美しい和音の層として響きうることを示し、この分野の美意識を決定づけた。ただし、飛ぶCDから音楽を作ったのはOvalが最初ではない。同じドイツでは、Stefan Betkeが偶然壊れた濾波器から出る雑音を発見し、Poleという名義でその音を軸に据えた作品を制作した。機材の故障そのものが、作り手の個性になったということである。オーストリアのChristian Fenneszは、ギターの音をデジタル処理によって崩壊させながら、その向こうに叙情的な旋律を浮かび上がらせるという方向を追求し、2001年の作品で高い評価を得た。日本の池田亮司は、正弦波と極端な高音、そして耳の限界を試す音量差によって、より厳密で理論的な方向を示している。ドイツのCarsten Nicolaiは、視覚芸術と音を同じ原理で扱う実践を続けた。この潮流を可視化したのはフランクフルトのレーベルMille Plateauxで、2000年に始まった編集盤シリーズ『Clicks & Cuts』が、この潮流の一部を指す「clicks & cuts」という呼び名を広めた。名称の由来はフランスの哲学書であり、思想的な後ろ盾を伴っていた点もこの分野の特徴である。現在では、この手法は特定の分野に留まらず、ポップスなどにも影響が及んでいる。
代表曲
- Endless Summer(Fennesz)
- Systemisch(Oval)
- Actionist Respoke (Mouse on Mars)
- Dataplex(Ryoji Ikeda)
- Virta 1. / Current 1 (Pan Sonic)
- Bib (Mouse on Mars)
- Juju (Mouse on Mars)
- Fermi (Pan Sonic)
- Untitled(Autechre)
- Transform(Alva Noto)
- Raum 1 (Pole)
- Rondell Eins (Pole)
ルーツ(影響を受けたジャンル)
Experimental Electronic、 Ambient、 Intelligent Dance Music
影響を与えたジャンル
Deconstructed Club
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